2021.12.6 容器機能

半導体製造とプラスチック容器の関係性|半導体分野で活躍するPFA

半導体製造とプラスチック容器の関係性|半導体分野で活躍するPFA

プラスチックには、原料そのものや添加物に含まれる金属イオン、製造工程で混入する金属イオンなど、金属溶出のリスクが多少なりとも存在します。そのため食品業界においては、食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度などによって、使用できる物質が厳格に定められています。

また、金属溶出・金属汚染の問題は、半導体の製造や微量分析試験の場においても悪影響を与えるため、半導体関連の業界・メーカーは製造体制を整えた上で、適切な汚染防止対策を講じることが重要です。

この記事では、プラスチックにおける金属溶出のリスクや、リスクがあるとされる半導体の基礎知識と製造工程、さらに金属溶出リスクを最小限に抑えることができるPFA製ボトルについて紹介します。

 

1.プラスチックにおいて金属溶出の可能性はある?

一般的なプラスチックにおいて、金属溶出の可能性はゼロではない、というのが実情です。例としては、プラスチックに使用されている原料や添加物などからの溶出が挙げられるでしょう。

プラスチックには、熱・光劣化を防ぐための安定剤や、耐熱・耐寒性や耐薬品性などを付与する改質剤など、目的や機能に合わせてさまざまな添加物が付加されており、添加物には素材として金属類が含まれている場合があります。

そのため安全性担保を目的として、食品用容器包装に使用される樹脂などは「ポジティブリスト」と呼ばれる基準で、使用される化合物の範囲が厳格に定められています。

しかしその他の用途では、ポジティブリストのような明確な基準がなく、プラスチックからCd(カドミウム)やPb(鉛)などの有害物質が、高濃度で検出された例もあります。

出典:J-STAGE「プラスチック製品に含まれる金属類の溶出特性化試験方法の設計」

また、樹脂製容器で保管する溶剤などにおける金属溶出を防ぐためは、金属溶出試験などを行いクリアしているものを選ぶことが大切です。

 

1-1.金属における毒性の例

食材・人体の中にも金属は存在していますが、毒性が強く体内での蓄積性が強い金属に関しては、過剰にさらされると人体に悪影響を及ぼし非常に危険です。

ここでは、毒性の強い代表的な重金属を抜粋して5つ紹介します。

Zn(亜鉛) 動植物における必須微量元素ですが、一定量を超えて摂取すると腹痛・下痢・嘔吐などを引き起こします。
Pb(鉛) 短時間のうちに大量摂取をすると、腹痛・嘔吐症状などのリスクがあり、重い場合は感覚異常症や急死の例もあります。
Cd(カドミウム) 日本では「イタイイタイ病」などでも知られる、毒性の強い金属です。清涼飲料水などには、カドミウムが検出されてはならないという規格があります。
Sn(スズ) 缶詰のメッキなどに使用されている金属です。缶詰フルーツや缶ジュースなどから検出された事例があり、食品衛生法によって規格量が定められています。
Hg(水銀) 「水俣病」を引き起こした金属としても知られ、特にメチル水銀は摂取すると臓器障害や中枢神経毒性などの誘因となるため危険です。

 

2.金属溶出について知っておきたいトピックス

金属溶出の問題は、食品包装容器はもちろん、半導体製造の場や微量分析試験を行う際においても注意しなければならない問題です。

ここでは、金属溶出にまつわるトピックスとして、「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度」についての詳細と、「半導体製造現場や微量分析試験における金属汚染のリスク」を紹介します。

 

2-1.食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度とは?

食品用器具・容器包装には、ポジティブリストとして使用できる物質が定められており、「合成樹脂」が対象となっています。

対象の物質
  • 合成樹脂(基ポリマー)
  • 合成樹脂の物理的・化学的性質を変化・付与させるために、使用されている添加剤(製品中に残存することを意図しているものが対象)
※触媒や重合助剤、添加剤中の不純物など、最終製品に残存することを意図していない物質は対象外

出典:厚生労働省「食品衛生法等の一部を改正する法律の政省令等に関する資料」

食品用器具・容器包装におけるポジティブリスト制度は、2020年6月1日に施行となった、比較的新しい制度です。

なお日本では、ゴム・金属類など、合成樹脂以外の材料や合成樹脂における非意図的生成物に関しては、「ネガティブリスト制度」で管理されています。

 

2-2.微量分析試験によるコンタミ汚染の影響は?

近年では、分析機器が進化しており、幅広い化学物質における微量分析試験が行えるようになっています。

一方で、微量分析試験の際も汚染物質のコンタミネーションに注意が必要です。汚染にさらされると検査結果の精度に大きなブレを与えます。

【汚染の主な原因】

  • 人体(汗・唾液・化粧品類など)や靴底などを介して作業室に運び込まれる汚染
  • 実験時における化学薬品の残留など、作業室内で発生する汚染
  • 分析機器や分析器具からの汚染

人体由来の汚染物質は、基本的に服装や操作の手順、手洗いの遵守などの規制によってある程度防止できることが分かっています。また、靴底由来の汚染に関しては、吸着マットの利用が有効的です。一方で、分析機器や分析器具からの汚染など、試薬と接触する材質からの汚染は、測定結果に大きなインパクトを与えるため、しっかりとした汚染防止対策が重要です。

出典:関東化学株式会社「化学分析における基礎技術の重要性」

実際に、2%硝酸を用いた採取容器での実験では、2%硝酸で洗浄を実施しても、約10~30μg/Lのナトリウムやカリウムなどが、ガラス容器から溶出していることが明らかになっています。

参考:イビデンエンジニアリング株式会社「微量元素分析における測定環境由来の汚染について」

分析器具に樹脂製容器を使用する場合に関しても、樹脂からの金属溶出が少ない容器を使用することが重要となるでしょう。

 

2-3.半導体製造における金属汚染のリスクは?

半導体製造現場においても、金属汚染は重大な問題です。重金属による汚染は、リーク電流の過剰誘因や酸化膜耐圧の劣化など、半導体製品の性能に悪影響を与え、結果的に歩留まり低下を引き起こす恐れがあります。

また現在では、半導体デバイスが微細化していることに伴い、金属不純物はもちろん、異物微粒子(パーティクル)や表面吸着化学汚染など、微小な汚染物質全般への対策・組織全体での取り組みが求められています。

 

3.金属汚染のリスクがあるとされる「半導体」とは?

金属汚染のリスクが危惧されている半導体とは、電気を通す導体と電気を通さない絶縁体の中間と言える性質をもった物質・材料のことです。導体と絶縁体の性質を半分ずつもつことが、名称の由来となります。

本来はシリコンやゲルマニウムをはじめとした物質が半導体の代表格でしたが、徐々に半導体を用いた集積回路やトランジスタなどが慣用的に半導体と呼ばれるようになりました。現在、自動車やスマートフォンなど電子機器のほとんどに半導体が使われており、金属汚染のリスクがあるとされる一方で人々の生活に欠かせないものとなっています。

 

3-1.半導体の性質

半導体は、簡単に説明すると「半分電気を通す性質をもった物質」です。半導体の性質をより詳しく理解するためには、導体と絶縁体の性質についても理解しておく必要があります。

「電気伝導体」「導電体」とも呼ばれる導体は、抵抗率が低く電気を通しやすいことが特徴的な物質です。例として、金・銀・銅・アルミニウムなどが挙げられます。電気分野においては、電線・ケーブルの心線部分として用いられます。

一方で、絶縁体は抵抗率が高く電気を通しにくい、あるいはまったく通さないことが特徴的な物質です。例として、プラスチック・ガラス・ゴムなどが挙げられます。電気分野においては、漏電を防ぐための保護材として用いられます。

性質面において導体と絶縁体の中間に位置するという特殊な物質の半導体は、温度上昇と比例して電気が通りやすくなることが特徴です。こうした性質から、電子部品として広く活用されるようになりました。

 

3-2.半導体が含まれているもの

現在、日本国内では半導体の含まれた多種多様な製品が流通しています。金属汚染のリスクがあるとされているものの、万が一半導体がなくなった場合、人々の生活は大きく一変するでしょう。ここでは、「家庭における半導体製品」と「家庭外における半導体製品」について紹介します。

家庭における半導体製品
  • パソコン・スマートフォン
  • LED電球
  • ソーラーパネル
  • モールディング 等

家庭において半導体が含まれた製品は、多岐にわたります。上記の機器・プラスチック製品だけでなく、エアコンの温度センサーや炊飯器の温度制御にも半導体が用いられています。

家庭外における半導体製品
  • ATM
  • ADAS(先進運転支援システム)
  • 医療ネットワーク

人工知能技術(AI)をはじめとしたIT技術の進歩によって、半導体製品は社会インフラの運営において中心的な役割を果たすようになり、需要・供給も右肩上がりとなっています。特に、車載用半導体デバイスは急速に増加しており、今後も自動運転・運転支援システムにおいてはさらに多くの半導体が使用されるでしょう。

 

3-3.国内外の半導体のシェア率

2019年における国内外の半導体シェア率は、下記の通りとなっていました。

日本 10.0%
米国 50.7%
アジア 25.2%

出典:総務省「令和3年版 情報通信白書|我が国ICT産業の世界的な位置付けの推移」

日本は国外と比較して半導体のシェア率が低く、出荷額で見ても減少傾向にありました。

しかし、2021年における日本の半導体出荷額は前年比29.6%増の7,412億円と、1年で著しく増加しています。中でも、スマートフォンやパソコンなどに用いられるディスクリート半導体の出荷額が特に高いことも分かっています。

出典:総務省「令和4年版 情報通信白書|半導体市場の動向」

 

4.半導体の製造工程

半導体の製造工程は、大きく「設計」「前工程」「後工程」の3ステップに分けられます。配線回路の設計を行い、電子回路をウェーハ表面に形成して前工程を完了させた後、後工程として半導体チップを切り取り、組み込んでいくというフローが一般的です。

ここからは、各ステップにおける具体的な製造工程を説明します。

 

4-1.設計

半導体のウェーハ表面に形成される配線・トランジスタは非常に細かくなっているため、直接の配置ができません。そのため、まずは設計フローにて半導体チップ上の回路配置を設計し、シミュレーションを複数回繰り返しながら効率的なパターンを検討します。

回路パターンをある程度設計できれば、透明なガラス板の表面にコンピュータを用いて設計した回路パターンを描き、半導体のウェーハに転写するための原版(マスタ)を作成します。なお、この原版は「フォトマスク(レクチル)」とも呼ばれます。

 

4-2.前工程

設計フローにて回路パターンの設計とフォトマスク作成が完了したら、下記の手順で前工程を進めていきます。

(1)ウェーハ表面の酸化 ウェーハ表面を高温の酸素にさらし酸化させ、酸化膜(絶縁層)をつくります。
(2)薄膜形成 ウェーハの酸化膜表面にあらゆる材料の薄膜をつけます。
(3)回路パターンの転写 フォトレジストと呼ばれる感光剤を用いて回路パターンを転写します。
(4)エッジング 形成パターンに沿って酸化膜と薄膜を削り取ります。
(5)レジスト剥離・不純物除去 残存したフォトレジストを剥離し、不純物を取り除きます。
(6)イオン注入 ドーパントと呼ばれる不純物イオンの注入による熱処理で活性化させ、電気的特性を変化させます。
(7)平坦化・電極形成 ウェーハ表面を研磨して凹凸を平坦化させた後、電極配線用金属を埋め込みます。
(8)ウェーハ検査 形成されたチップ一つひとつに対し、プローブと呼ばれる針を接触させ、問題の有無を検査します。

 

4-3.後工程

前工程にてウェーハ表面の酸化からウェーハ検査までが完了したら、下記の手順で後工程を進めていきます。

(1)ダイシング ウェーハをダイヤモンドブレードで切断し、一つひとつのチップに切り離します。切り離したチップは「ダイ」と呼ばれます。
(2)パッケージング チップの損傷や腐食から保護するため、樹脂などで封入します。
(3)最終検査 電気的特性検査や外観構造検査といった各種品質検査に加え、長期寿命試験といった信頼性試験を行い、基準を満たさない不良品を取り除きます。
(4)アッセンブリー 最終検査を経て完成した半導体は、スマートフォンやパソコン、自動車をはじめとしたさまざまな製品やプラスチック形成部品の一部に組み込まれます。

 

5.半導体の需要と現在不足している理由

ITが徐々に発展し、半導体の供給が需要を上回りつつあった中、2019年から世界中で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、半導体不足にさらなる拍車がかかりました。

家電製品の急激な需要拡大やIoT製品をはじめとした新たな需要の誕生に伴い、十分な量の半導体が必要となっている一方、パンデミックの影響で世界中の半導体製造工場は閉鎖・稼働停止または制限を余儀なくされます。

こうした事態によって生産量が著しく低下し、これまで問題なく量産対応できていた半導体製品は出荷制限・販売停止せざるを得なくなるという影響があらゆる業界に及びました。この影響は、半導体関連製品の大幅な値上げという形で一般消費者にも及びます。

また、半導体生産工場の老朽化やメーカー側の働き手不足・技術力不足が原因で、半導体の供給量が大きく減少するケースも各所で報告されています。複数の要因が関係して著しい半導体不足に陥った状況をすぐに解消するのは困難であり、現在でも世界中で半導体不足が続いています。

 

6.半導体分野に利用される「PFA」とは?

半導体分野においては、「PFA」が主に利用されています。

PFAとは、4フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレンの共重合樹脂であり、正式名称は「ポリテトラフルオロエチレン」です。

PTFEの加工性を改良するために開発された樹脂で、切削加工しかできなかったPTFEと違って複雑な形状の溶融成形に対応できる点が特徴となっています。

 

6-1.PFAの性能

PFAが優れているのは、加工性だけではありません。その他にも、下記8つの性能に強みをもっています。

  • 耐熱性
  • 耐薬品性
  • 純粋性
  • 非粘着性
  • 電気絶縁性
  • 耐燃焼性
  • 耐紫外線特性
  • 低摩擦性

中でも特に、耐熱性・耐薬品性・純粋性はPFAの特徴的な性能と言えるでしょう。

耐熱性 PFAの最高連続使用温度は260℃と、さまざまな樹脂の中でも最高クラスの耐熱性をもっています。なお、耐寒性にも優れており、-196℃の極低温度においてもその耐性を発揮します。
耐薬品性 あらゆる化学薬品にさらされても、薬品に浸されたり膨潤したりするなどの劣化が起きず、安定性に優れています。
純粋性 有機溶剤に対する抵抗率が強く、内容物の溶出・金属イオンの汚染を防げます。

下記のページでは、PFAの概要や代表用途・特性についてより詳しく説明しています。ぜひ併せてご覧ください。

 

7.金属溶出が極めて少ない「PFAボトル」

サンプラテックでは、樹脂からの金属溶出が極めて少ない「PFAボトル」を取り扱っています。

半導体の製造や微量分析でも使用可能な容器であるため、理化学分野・工業分野など幅広く利用されています。

 

7-1.サンプラテックで扱う主なPFA製ボトル・容器

PFA製品は、オートクレーブ・乾熱滅菌なども可能であることから、幅広い用途で使用できます。強酸・強アルカリ、有機溶媒などの保管容器としても、ぜひご利用ください。

サンプラ(R)PFA広口ボトル(中栓付)

サンプラ(R)PFA広口ボトル(中栓付)

メタルフリー・中栓付のPFA製広口ボトルです。100~1,000mlのサイズからお選びいただけます。

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サンプラ(R)PFA細口ボトル(中栓付)

サンプラ(R)PFA細口ボトル(中栓付)

メタルフリー・中栓付のPFA製細口ボトルです。100~1,000mlのサイズからお選びいただけます。

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サンプラ(R) PFAボトル GL45

サンプラ(R) PFAボトル GL45

口部がGL45タイプとなったPFA製ボトルです。肉厚成形で強固なため、強い薬剤でも安心してお使いいただけます。

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サンプラ(R) PFA広口洗浄瓶

サンプラ(R) PFA広口洗浄瓶

メタルフリーのオールPFA製広口洗浄瓶です。耐熱性・耐薬品性に優れており、金属汚染の心配なくお使いいただけます。

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サンプラ(R)フッ酸洗浄PFAボトル

サンプラ(R)フッ酸洗浄PFAボトル

メタルフリーのPFA製ボトルです。フッ酸洗浄を施し、パーティクルや微量金属イオンを極限まで除去しています。

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サンプラ(R) PF洗浄PFA広口ボトル(中栓なし)

サンプラ(R) PF洗浄PFA広口ボトル(中栓なし)

メタルフリー・中栓なしのPFA製広口ボトルです。PF洗浄により、パーティクルやパイロジェンを除去した高品質な樹脂製ボトルとなっています。

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サンプラ(R)塩酸洗浄PFAボトル

サンプラ(R)塩酸洗浄PFAボトル

メタルフリーのPFA製ボトルです。塩酸洗浄を施し、パーティクルや微量金属イオンを除去しています。

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クリーンパックサンプラ(R)PFA広口ボトル(中栓なし)

クリーンパックサンプラ(R)PFA広口ボトル(中栓なし)

純水洗浄でパーティクルを除去した、メタルフリー・中栓なしのPFA製広口ボトルです。クリーンルームでのご使用に適しています。

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「サンプラテック」の特注工房では、用途に適した樹脂製ボトルのオーダーメイド製作も承っております。大小問わず1個からのご依頼にも対応しておりますので、ぜひお問い合わせください。

 

まとめ

プラスチックには、機能付加を目的として添加物が含まれており、添加物由来の金属溶出に注意しなければなりません。特に半導体製造現場や微量分析の際にも、金属汚染は防がなければならない事象のため、使用する容器も金属溶出が極めて少ないものを導入するとよいでしょう。

サンプラテックでは、金属溶出の問題に対応できる「PFA製ボトル」を、多彩なラインナップで取り扱っています。またIREMONOサイトでは、他にもプラスチックに関するトピックス・情報や、理化学シーンに最適な樹脂製容器を紹介しているため、ぜひ併せてご確認ください。

実験器具・機器メーカー販売サイト「PLA.com」