【プラスチック別】変形・劣化に関する指標と特徴を解説!
プラスチックは成形性に優れ、容器・包装製品や電気電子製品の部品として広く使用されています。しかしプラスチック製品を使用する中で、そり・収縮・膨張といった変形や劣化に悩まされた方も多いのではないでしょうか。
プラスチックはいくつかの外的要因で変形・劣化が起こる材料であるため、製造・使用する上では変形・劣化の原因と対策方法を知ることが大切です。本記事では、プラスチックが変形・劣化する際の主な指標と、プラスチックの種類別に変形・劣化に関する特徴を解説します。
1.【性質別】プラスチックの変形・劣化に関する主な指標
プラスチックの変形・劣化について知るために、まずは以下に挙げるプラスチックの5つの性質を理解しておきましょう。
熱的性質 | プラスチックが熱を受けた時の性質 |
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機械的性質 | プラスチックが外力を受けた時の性質 |
電気的性質 | プラスチックに電気が流れた時の性質 |
物理的性質 | プラスチックの化学組成を変えることなく観察できる性質 |
化学的性質 | プラスチックに化学反応が起きた際に観察できる性質 |
以下では、プラスチックが変形・劣化する際の主な指標として、熱的性質・機械的性質・電気的性質におけるいくつかの試験項目と測定方法を紹介します。
1-1.熱的性質
熱的性質における変形・劣化指標として、耐熱性を示す「連続耐熱温度」「熱変形温度」の2種類を紹介します。
■連続耐熱温度 | 単位:℃ |
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連続耐熱温度とは、プラスチックを一定温度の大気中に40,000時間放置した場合に、プラスチックの持つ物性値が初期値と比べて50%劣化する温度のことです。 |
■熱変形温度 | 単位:℃(0.45MPa)、℃(1.8MPa)など ※Kg/cm2で表すこともある |
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熱変形温度とは、プラスチックに荷重を与えた状態で温度を徐々に上昇させた場合に、プラスチックのたわみが一定以上になる温度のことです。 |
連続耐熱温度は自動車のエンジン部やソーラーパネル部品など、長期的な耐熱性が求められるプラスチック成形品の試験に適しています。
一方の熱変形温度は、熱的性質で材料選定する際に役立つ指標です。種類が異なるプラスチック同士の熱変形温度を比較することで、熱に強いプラスチックを選ぶことができます。
1-2.機械的性質
機械的性質における変形・劣化指標として、「引張強さ」「圧縮強さ」「曲げ強さ」「衝撃強さ」の4つを紹介します。
■引張強さ | 単位:Kg/cm2 |
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引張強さとは、プラスチックに一定の方向性で引張力を加えた状態における、最大応力のことです。プラスチックを引っ張った際の強度を求められます。 |
■圧縮強さ | 単位:Kg/cm2 |
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圧縮強さとは、プラスチックに圧縮荷重を加え続けた際に、プラスチックが破断される圧縮応力のことです。プラスチックの荷重に対する強度を求められます。 |
■曲げ強さ | 単位:Kg/cm2 |
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曲げ強さとは、プラスチックに対して曲げの外力を加えた状態における、プラスチックが破断する曲げ応力のことです。プラスチックを曲げた際の強度を求められます。 |
■衝撃強さ | 単位:Izod Kg・cm/cm ※ Izod:アイゾット衝撃試験 |
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衝撃強さとは、プラスチックに衝撃的な荷重を加えた際に、プラスチックが破断する衝撃応力のことです。プラスチックの耐衝撃性を求められます。 |
機械的性質の指標は、いずれもプラスチックの破断に対する耐久性能を示しています。荷重が加わることを想定すべき制振材などであれば圧縮強さ、工作機械の主軸部は曲げ強さなど、プラスチックの用途に適した指標を確認することが大切です。
1-3.電気的性質
電気的性質における変形・劣化指標として、「耐アーク性」を解説します。アーク放電は2つの電極間で気体が放電する現象であり、活用例としては蛍光灯やアーク溶接が有名です。
■耐アーク性 | 単位:sec |
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耐アーク性とは、アーク放電によるプラスチックの劣化に対する耐性のことです。プラスチック表面上にアーク放電を起こし、短絡が発生するまでの時間を計測します。 |
アーク放電によってプラスチックが炭化すると、表面に導電路が形成されて絶縁性が低下します。プラスチックの絶縁性や、短絡による燃焼・火災を防ぎたい場合は、耐アーク性を必ず確認しましょう。
2.【プラスチック別】変形・劣化に関する特徴
プラスチックの変形・劣化は、基本的に各指標の数値を超える環境で使用した際に起こりやすいです。プラスチック製容器を使用する方は、「プラスチック製容器の耐熱温度」について理解することも大切であるため、以下の記事も併せて参考にしてください。
以下では、ポリエチレン・ポリプロピレンなど、使用頻度が高いプラスチックに関して、変形・劣化に関する特徴を抜粋して紹介します。
本記事で紹介する指標 | |
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ポリエチレン(PE)・ポリプロピレン(PP) | 熱的性質 |
フッ素樹脂(PFAなど)・ポリカーボネート(PC) | 電気的性質 |
その他のプラスチック | 機械的性質 |
2-1.ポリエチレン(PE)
ポリエチレンは低密度ポリエチレン(LDPE)・中密度ポリエチレン(MDPE)・高密度ポリエチレン(HDPE)の3種類が存在します。
密度の違いは特徴にも影響しており、各ポリエチレンの耐熱性は以下のように差があります。
LDPE 連続耐熱温度(単位:℃) 82~100 熱変形温度(単位:℃【18.5Kg/cm2】) 32~40
MDPE 連続耐熱温度(単位:℃) 105~121 熱変形温度(単位:℃【18.5Kg/cm2】) 40~49
HDPE 連続耐熱温度(単位:℃) 121 熱変形温度(単位:℃【18.5Kg/cm2】) 43~54
なお、オートクレーブ滅菌を行うためには121℃の耐熱性能が必要であるものの、HDPEではオートクレーブを利用できません。
2-2.ポリプロピレン(PP)
ポリプロピレンはプラスチックの中でも軽量で、強度や耐薬品性に優れたプラスチックです。耐熱性にも優れており、ポリプロピレンの連続耐熱温度と熱変形温度は以下の通りとなっています。
連続耐熱温度(単位:℃) 107~150 熱変形温度(単位:℃【18.5Kg/cm2】) 52~60
ポリプロピレンは連続耐熱温度が高く、連続耐熱温度が121℃を超える数値であればオートクレーブ滅菌を行うことも可能です。
2-3.フッ素樹脂(PFAなど)
フッ素樹脂はPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)やPTFE(四フッ化エチレン)が代表的です。耐熱性や耐薬品性の他、プラスチックの中でも多くの機能で高い性能を発揮し、電気的性質にも優れています。
種類 PFA・PTFE 耐アーク性(単位:sec) >300
PFAやPTFEは電線被覆などの絶縁材料や、試薬保管用の容器などに使用されています。
2-4.ポリカーボネート(PC)
ポリカーボネートは透明性が高いプラスチックであり、絶縁抵抗・耐電圧など、電気的性質に優れています。
種類 非強化グレード PC 耐アーク性(単位:sec) 10-120
出典:株式会社KDA「PC(ポリカーボネート)樹脂物性表1」
また、ポリカーボネートは耐衝撃性が高い特性を持ち、防弾プラスチックとしても使用されるほどです。ほかにも、ポリカーボネートは耐熱性が高いためオートクレーブも可能であり、ウェルプレートや培養プレートを輸送する際の二次容器に使用されています。
2-5.ポリスチレン(PS)
ポリスチレンは加工性に優れたプラスチックで、食品トレーや理化学用のフラスコ・シャーレ、家電製品の筐体にも使用されています。機械的性質として優れた特徴も持つものの、衝撃には弱いため注意が必要です。
引張強さ(単位:Kg/cm2) 350~630 圧縮強さ(単位:Kg/cm2) 810~1120 曲げ強さ(単位:Kg/cm2) 610~980 衝撃強さ(単位: Izod Kg・cm/cm) 1.4~2.2
一般的なポリスチレンにゴムを加えて衝撃強さを改善した、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)も存在します。
2-6.ABSプラスチック
ABSプラスチックは耐熱性や耐衝撃性、加工性といった多くの特徴を併せ持つプラスチックです。とくに機械的性質に優れており、大型品を製造する用途に適しています。
引張強さ(単位:Kg/cm2) 170~630 圧縮強さ(単位:Kg/cm2) 180~770 曲げ強さ(単位:Kg/cm2) 250~950 衝撃強さ(単位: Izod Kg・cm/cm) 3.8~66
ABSプラスチックは外観が滑らかで、光沢を出せることも特徴です。理化学分野ではプラスチック板に使用されており、表面に塗装・メッキ・溶接といった加工ができます。
2-7.ポリ塩化ビニル(PVC)
ポリ塩化ビニルは軟質・硬質の2種類が存在します。軟質は可塑剤を含んだ柔軟性のあるPVCであり、硬質は可塑剤を含まないため硬いPVCです。
PVC軟質 引張強さ(単位:Kg/cm2) 105~630 圧縮強さ(単位:Kg/cm2) 63~120 曲げ強さ(単位:Kg/cm2) – 衝撃強さ(単位: Izod Kg・cm/cm) –
PVC硬質 引張強さ(単位:Kg/cm2) 350~630 圧縮強さ(単位:Kg/cm2) 560~910 曲げ強さ(単位:Kg/cm2) 700~1130 衝撃強さ(単位: Izod Kg・cm/cm) 2.2~109
硬質のPVCは水道管や継手など、水回りに多く使用されています。軟質のPVCは軽量であるため、クリーンブース用のカーテンに適したプラスチックです。
まとめ
プラスチックの変形・劣化は、プラスチックが持つ熱的性質・機械的性質・電気的性質などと関係しています。紹介したプラスチック別の変形・劣化に関する特徴を基に、利用環境に適したプラスチックを選ぶことが大切です。
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