プラスチックの耐寒性|3つの樹脂製容器の特性も紹介
樹脂(プラスチック)は、高分子材料の一種です。樹脂にはさまざまな種類があり、それぞれの特性に応じて日常生活用品や半導体関連装置、医療機器など多岐にわたる製品に使用されています。
本記事で取り上げる樹脂製容器は、製造現場や研究開発、品質管理などの現場製品です。特殊な条件下で行うことの多い実験には、耐薬品性や耐候性、耐熱性などさまざまな耐性を備えた樹脂製容器が欠かせません。
この記事では、樹脂における耐性のなかでも耐寒性に着目し、素材別の耐寒性や耐寒性を評価するための試験方法などについて詳しく解説します。
1.樹脂(プラスチック)は温度環境の影響を受ける素材
高分子材料である樹脂は、温度環境の影響を受けやすい物質です。したがって、樹脂の耐久性は温度環境に依存しています。
一般的に、低温環境は樹脂の耐久性を損なう一因です。通常、樹脂は低温下においては結晶化やガラス転移などが起こり、硬化してしまいます。硬化に伴い、耐衝撃性も大きく低下する可能性があります。
また、樹脂は高温に対してもぜい弱です。高温にさらすことで色あせや軟化、溶解といったさまざまな変化が起こります。
ただし、樹脂の素材によって結晶化したり、溶解したりする温度は大きく異なります。
2.【素材別】樹脂(プラスチック)の耐寒性・特性
ここでは、素材別の耐寒性・特性について、それぞれの「ぜい化温度」を示しながら説明します。ぜい化温度とは、冷却された樹脂の強度が弱化し、破壊されやすくなる温度です。
代表的な樹脂素材として、ここではポリエチレン・ポリプロピレン・ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂・ポリ塩化ビニル・フッ化ビニリデンの5種類を紹介します。
2-1.ポリエチレン(PE)
ポリエチレン(PE)は、高分子素材のなかで最も単純な構造を持つ樹脂です。高密度ポリエチレンは「HDPE」、低密度ポリエチレンは「LDPE」と呼ばれています。ぜい化温度は-40℃で、低温に対する衝撃性をはじめ、耐水性や成形性などに優れている点が特性です。
射出成形や押出成形、ブロー成形といった成形方法に対応し、原料も安価であるため、大量生産を要する素材や製品に適しています。用途例は、ラップ・フィルム・ラミネート・シート・食品容器などです。
2-2.ポリプロピレン(PP)
ポリプロピレン(PP)には、繊維が大変軽量で比重が小さいという特性があります。ぜい化温度は-20~0℃です。ポリエチレンと類似点が多く、成形性や耐水性、食品衛生性に優れています。
透明性やストレスクラッキング性、引っ張り強さなどは、ポリプロピレンがポリエチレンよりも優れている点です。一方で、耐候性はポリプロピレンのほうが劣っています。用途例は、食品容器・ロープ・カーペット・洗濯槽・エアコン・バンパー・注射器などです。
2-3.ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)
ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)は、四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンの共重合樹脂です。ぜい化温度は-150℃と大変低く、融点も約300℃と高いため、広い温度範囲で機械的強度を維持できます。
特溶成形によって複雑な形状成形に対応できる点も大きな特性です。さらに、高濃度の酸やアルカリなどに対する耐薬品性に加え、耐候性や非粘着性、電気絶縁性などにも優れています。用途例は、半導体製造装置の継手・ライニング・フィルム・フィルターなどです。
2-4.ポリ塩化ビニル(PVC)
ポリ塩化ビニルは、「塩ビ」とも略称される樹脂です。ぜい化温度は-40~-20℃で、強度や耐候性、耐薬品性などに優れています。軟質と硬質の製品を安価に製造できる点もポリ塩化ビニルの特性です。ただし、熱や太陽光にぜい弱で65~85℃で軟化します。
用途例は、文具・建材・合成皮革・農業用や工業用の配管・電線被覆などです。
2-5.フッ化ビニリデン(PVDF)
フッ化ビニリデン(PVDF)は、フッ素系のなかでは最も機械的強度の高い樹脂です。ぜい化温度は-40℃で、加工性や耐候性に優れています。耐熱性はほかのフッ素系樹脂よりもやや劣るものの、連続使用温度は150℃と高めです。
用途例としては、半導体製造装置のバルブ・ローラー・ボルト・医療機器などがあります。
3.樹脂(プラスチック)が持つ耐寒性を評価する6つの試験方法
樹脂の耐寒性は、耐熱性と同様に各種の試験によって評価を受けます。樹脂は低温下に置かれると、結晶化やガラス転移などが起こるため、製品の品質を保つためにも耐寒性に関する試験を行うことが重要です。
そこで、ここでは樹脂の耐寒性を評価する試験方法について表にして解説します。取り上げる試験は、衝撃ぜい化試験・TR試験・低温落すい試験・柔軟温度試験・低温ねじり試験・低温曲げ試験の6つです。
衝撃ぜい化試験 | |
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試験の概要 | 低温雰囲気で一定の時間冷却した試験片に衝撃を与え、破壊の有無によって衝撃ぜい化温度を評価する試験である。 具体的には、衝撃ぜい化限界温度や50%衝撃ぜい化温度を評価するほか、指定した温度に対する破壊個数などを測定する。 |
試験対象 |
など |
TR試験 | |
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試験の概要 | 「TR」とは、低温弾性回復試験の英訳「Temperature retraction」の略称である。 伸張させた試験片を-70℃に冷却した後、温度を徐々に上昇させ、試験片の弾力が回復する収縮率について、10%・30%・50%・70%に相当する温度を評価する。 |
試験対象 |
など |
低温落すい試験 | |
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試験の概要 | ビニルレザークロスやゴム引布のJIS規格向けの試験である。 試験片の長辺を半分に折り曲げ、低温雰囲気で5分間冷却した後におもりを落下し、試験片におけるひび割れの有無を評価する。 |
試験対象 |
など |
柔軟温度試験 | |
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試験の概要 | 低温下におけるねじり剛性を評価する試験である。 まず、試験片を-55℃に冷却した後に5℃ずつ昇温させ、トルクをかけてねじれ角度を測定する。測定における温度と剛性率の相関性から、剛性率310MPaとなる温度を柔軟温度として評価する。 |
試験対象 |
など |
低温ねじり試験 | |
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試験の概要 | 低温下でのねじり剛さを評価する試験である。 試験片を-70℃で冷却した後、5℃ずつ昇温させるごとにねじり角度を測定する。 |
試験対象 |
など |
低温曲げ試験 | |
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試験の概要 | 低温環境における曲げへの耐久性を評価する試験である。 試験片を試験治具の平行板に設置し、低温雰囲気で一定の時間冷却する。その後、試験片を平行板の間隔を60mmから25mmへ素早く移動させ、試験片が押し曲がった際の折り曲げ部における亀裂や破壊の有無を評価する。 |
試験対象 |
など |
4.代表的な3つの樹脂製容器の耐寒性は?
理化学分野では、実験などで使用する消耗品には樹脂製品が多く、特に容器類は内容物や用途に応じた多種多様な製品があります。なかでも、汎用樹脂であるポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、エンジニアリング・プラスチックのPFAのボトルや容器は使用頻度が高く、耐寒性が求められるシーンでの用途も多いのではないでしょうか。
ここでは、代表的な3つの樹脂製容器を取り上げ、それぞれの耐寒性について解説します。
■PE製容器
PE製容器はポリエチレンを素材とした容器で、容器としての耐寒性は-20℃程度です。耐薬品性、機械的強度などに優れ、薬品の保存や運搬など幅広い目的に対応します。安価に製造できるうえ、サイズ展開も豊富です。
■PP製容器
PP製容器はポリプロピレンを素材とする容器で、ぜい化温度は-20~0℃です。耐熱温度が121℃と高く、オートクレーブにも対応します。耐薬品性や耐衝撃性に優れているうえ、半透明のため内容物を見やすい点もメリットです。
■PFA製容器
ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂を素材とする容器は、耐寒性および耐熱性に優れており、-196℃~260℃という広い温度範囲に対する耐性があります。耐薬品性や耐溶剤性、耐衝撃性などにも優れた性能の高い容器です。