2021.4.1 容器機能

EB滅菌(電子線滅菌)とは?5つのメリットとEB滅菌可能容器も紹介

EB滅菌(電子線滅菌)とは?5つのメリットとEB滅菌可能容器も紹介

EB滅菌(電子線滅菌)は、医療機器や検査用品、クリーンルーム用品など、清浄な状態を保つべき機械器具などの滅菌に用いられています。業務や研究で使用する機器・備品の滅菌法としてEB滅菌を知り、興味を持った人も多いでしょう。EB滅菌は、特殊な性質を持つ電子線を装置から照射する、多くのメリットがある滅菌法です。

今回はEB滅菌の概要・仕組みから、代表的なメリット、他の滅菌方法との違い、EB滅菌が可能なプラスチック容器について紹介します。

 

1.EB滅菌(電子線滅菌)とは?

EB滅菌(電子線滅菌)とは、粒子線の一種である電子線(Electron beam)を使用する滅菌法です。電子線とは高速度で放射される電子の流れであり、EB滅菌で使用する電子線は電子線照射装置と呼ばれる電子加速器によって人工的に作られます。電子加速器から放出された電子線が汚染原因である微生物に作用し、滅菌するという仕組みです。

 

1-1.EB滅菌の特性とメカニズム

EB滅菌の電子線によって滅菌できる理由は2つあります。

1つ目は、電子線が物質にぶつかることで電離作用が起こるためです。電離作用とは、物質を構成する原子から電子が離れる作用です。電子が離れた原子は不安定な状態となります。電子線が微生物にぶつかると、細胞内の核酸などに電離作用を引き起こし、DNAの二重螺旋構造を破壊することで滅菌します。

2つ目は、電子線が細胞内の水分子を分解して、フリーラジカル(ラジカル・遊離基)を発生させるためです。フリーラジカルは反応性が高く、酸化還元反応を起こすことで、DNAなどの生体高分子にダメージを与えます。

このように、EB滅菌は電子線が起こす電離作用と、フリーフリーラジカルの酸化還元反応によって、微生物を殺滅する滅菌方法です。

 

2.EB滅菌のメリットは5つ

EB滅菌で使用する電子線は加速された電子の流れであり、特殊な性質を持っています。EB滅菌のメリッとは、電子線が持つ性質や電子加速器の特徴に由来するものです。

以下ではEB滅菌が持つ5つのメリットを解説し、ものづくりや研究の現場における恩恵についても紹介します。

 

2-1.物質への透過性が高い

EB滅菌で使用する電子線は、物質への透過性が高いことがメリットです。高速度で放射された電子の流れは物質を透過しやすいという性質があり、密度が低い状態の金属を透過することもできます。5MeV電子線で両面照射する場合、密度1g/cm3の水・プラスチック素材などを4cm程度透過することが可能です。

また、電子線の透過力は電子にかかる加速電圧によって決定されます。そのため、電子加速器の出力によって物質への透過性をコントロールできることも、EB滅菌のメリットです。対象物の包装材料によって透過性が影響されることも少なく、アルミ包装や多重包装にも使用できます。

 

2-2.照射処理時間・判定時間が短い

電子線は高線量率での照射が可能であり、EB滅菌による照射処理時間を短く済ませられるというメリットがあります。EB滅菌を行う場合、実際の照射時間は数秒~数分程度です。連続照射ができるため、大量の照射対象物をコンベアベルトに乗せて効率的に高速処理することもできます。

また、EB滅菌を行った後は、1~2時間程度でフィルム型線量計による線量測定を行えることもメリットです。滅菌の判定時間が短く済むため、EB滅菌後は即日で対象物を使用・出荷することができます。

 

2-3.低温でも照射できる

電子線は照射しても対象物に大きな温度上昇を引き起こしません。そのため、EB滅菌は熱による影響を避けたい対象物に適した滅菌方法です。医薬品・化粧品用のプラスチック容器、医薬品・生薬原料・農畜産関連品などにも使用できます。

EB滅菌は冷却・冷凍状態にある物品を解凍せずに、そのまま照射して滅菌することも可能です。冷却・冷凍状態のままEB滅菌処理を行うと、常温時の照射に比べてより照射変質を抑えられるというメリットがあります。

 

2-4.照射線量で滅菌判定ができる

EB滅菌は、対象物に付着した微生物などが電子線を吸収することで滅菌する仕組みです。十分な照射線量を与えると微生物を殺滅できるため、滅菌に必要な照射線量をあらかじめ測定しておくことで、照射線量のみで滅菌判定ができます。

なお、EB滅菌において必要な照射線量を求めるためには、無菌性を保証できることの妥当性を試験検証し文書化する、滅菌バリデーションが必要です。とくに医療機器などを滅菌する場合は、滅菌バリデーションの実施が義務付けられています。

 

2-5.滅菌後の残留物処理が必要ない

EB滅菌において使用する電子線はあくまでも電子の流れであり、対象物に照射しても残留物を発生させないという特徴があります。そのため、滅菌後の残留物処理が必要なく、安全性が高いこともメリットのひとつです。

EB滅菌で残留物処理が必要ないことは、最終包装・梱包状態のまま滅菌処理できる利点にもつながっています。梱包後の対象物に電子線を照射すると、梱包表面を透過して内部も滅菌し、製品をほぼ無菌の状態に保つことが可能です。

 

3.EB滅菌と他の滅菌方法の違い

EB滅菌以外の主要な滅菌方法には、エチレンオキサイドガスを使用するEOG滅菌、高圧蒸気を使用するオートクレーブ、ガンマ線を使用するガンマ線滅菌があります。EB滅菌を選択する場合は、他の滅菌方法とどのような違いがあるかを正しく理解しましょう。

4つの滅菌方法における主な違いを以下の表で比較します。

EB滅菌 EOG滅菌
処理可能な材料 耐放射線性耐圧性・耐熱性
滅菌の主要因子 線量(ビーム電流・エネルギー・時間)ガス濃度・圧力・温度・湿度・時間
透過性 あり対象により異なる
処理時間 数秒~数分十数時間
処理方法 連続式バッチ式
滅菌温度 常温38~60℃程度
残留物 なしガス
後処理 不要エアレーション
オートクレーブ ガンマ線滅菌
処理可能な材料 耐熱性・耐水性耐放射線性
滅菌の主要因子 圧力・温度・時間線量(線源・時間)
透過性 対象により異なるあり
処理時間 数時間数時間
処理方法 バッチ式連続式
滅菌温度 120℃程度常温
残留物 水滴なし
後処理 乾燥不要

EB滅菌と他の滅菌方法における違いには、処理時間の短さが挙げられます。他の滅菌方法が処理に数時間~十数時間かかることに対し、EB滅菌は数秒~数分で処理が完了します。また、EB滅菌は残留物や後処理が発生することもありません。耐放射線性がある材料を滅菌処理する場合、EB滅菌は利点が多い滅菌方法です。

 

4.EB滅菌が可能なプラスチック容器は?

EB滅菌が可能なプラスチック容器としては、ポリエチレン(PE)やポリスチレン(PS)が一般的です。どちらも電子線による材質への影響が少なく、業務・研究におけるEB滅菌可能な容器として使用できます。

ポリプロピレン(PP)は、EB滅菌を行っても耐熱温度・耐薬性など容器としての性質は変わりません。しかし、樹脂が黄変したり経時的に材質変化を起こしたりする場合があります。また、ポリカーボネート(PC)や塩化ビニル樹脂(PVC)は劣化する可能性が、フッ素樹脂の一種であるPTFEは分解を起こす可能性があります。EB滅菌は滅菌レベルが高い滅菌方法であるものの、材質によっては不向きなプラスチック容器も存在するため、注意が必要です。

サンプラテックでは、プラスチック製EB滅菌容器として、以下の2商品を用意しています。

EB滅菌瓶(広口)

EB滅菌瓶(広口)

液体や試料のサンプリングに適した、EB滅菌済みの滅菌瓶です。特殊シール構造のキャップにより密閉性を高く保つことができ、中栓がないため開封後はスムーズに作業できます。

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滅菌採水瓶(ハイポ入り)広口

滅菌採水瓶(ハイポ入り)広口

水道水などの水質検査用に最適な、EB滅菌済みの採水瓶です。本体容器にキャップをセットした状態で個装しており、本体容器内には塩素中和剤としてハイポ(チオ硫酸ナトリウム)を所定量封入しています。開封後にキャップを開き、そのまま採水に使用できる商品です。

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どちらの商品も、容量は100ml・250ml・500ml・1Lの4種類を用意しております。EB滅菌済みのプラスチック容器が必要な場合は、サンプラテックの滅菌瓶をご利用ください。また、希望する容器へのEB滅菌処理を特注依頼することも可能です。

 

まとめ

EB滅菌とは、電子加速器から照射される電子線を用いた滅菌方法です。電子線は電離作用と酸化還元反応によってDNAに対してダメージを与えるため、対象物にEB滅菌を行うと微生物を殺滅することができます。

EB滅菌は物質への透過性が高く、照射処理時間が短いことがメリットです。低温を維持して照射することも可能であり、滅菌判定の簡便性、残留物処理が不要といったメリットもあります。

プラスチック容器を使用する場合、材質によってはEB滅菌に適さない容器もあることに注意してください。サンプラテックではEB滅菌が可能なプラスチック容器として、2種類の滅菌瓶を用意しております。

実験器具・機器メーカー販売サイト「PLA.com」